州政府間の税制優遇合戦の中でも最悪の形態の1つである港湾戦争によって既に多くの損失が生じているが、もし連邦政府がこの狂騒に終止符を打てないようなら、ブラジルの工業部門は今後、極めて重大なリスクにさらされるだろう。数年にわたって複数の州政府が、国内外の企業の投資を呼び込もうと税制優遇政策とその他の便宜を図ってきた。これに伴って深刻な軋轢が発生し、かつ現在も続いているのであるが、それでもブラジルにおいては生産的投資が継続されてきた。ところが最近になってある州知事のグループが採用した戦略は、もはや、軋轢と呼べる範囲を超えている。というのも、単に投資の流れを変えて呼び込むだけにとどまらず、国内工業を崩壊させ、雇用を壊滅させるからだ。輸入に対して税制上の優遇措置を与え、国外の競争者を擁護し国外での雇用創出を後押しするものであり、世界の大部分で採用される政策とは正反対の様相を呈する異常事態だ。
サンパウロ州工業連盟(Fiesp)の複数のエコノミストが、そのような恩恵措置をベースに2011年は222億ドル相当の輸入が行われたと試算している。この金額は、2011年に計上された工業製品の輸入総額の11.5%に相当する。研究資料によると、国内市場だけを見た場合、この需要によって371億レアルの経済効果が工業生産に直接的に発生してもよかったはずのものだった。これらの計算には、工業生産から波及した経済活動効果は考慮されていない。これらを含めて経済全体で見ると、804億レアルに達するプラス効果があったはずだとされる。
ロメロ・ジュカー上院議員が起草した上院の決議第72号は、この破局と戦うために見いだされた解決策だ。もしこれが承認されるなら、州境をまたいで流通する製品に対する商品サービス流通税(ICMS)の課税率は、4%に引き下げられることになる。さらに、税率を引き下げる対象を輸入品に限定するのかすべてを対象にするのかを議論すれば、なお良いだろう。いずれにしても、この解決策は本質的に、輸入に基づくアドバンテージを、完全に排除あるいは相応の水準で削減することで成立している。
現行制度では、別の州に販売される製品に対して州財務局は、12%あるいは7%(ゾーニングにより課税率が定められている)の税金を徴収する。販売先の州では、購入者に17%あるいは18%が課税されるが、販売元州で支払われる税金に相当する金額を控除できる。港湾戦争のケースでは、税制優遇措置により販売州において課税がされないかもしくわ極めて低い課税率(例えば3%)になっている。その結果、輸入業者は莫大なアドバンテージを獲得し、国産品を大きく下回る価格で輸入された商品を提供することが可能になる。この条件に基づきエスピリト・サント州で輸入された自動車は、ギド・マンテガ財務大臣によると、およそ10%の助成を受けてブラジル国内市場で流通している格好になる。同大臣は、もしこの軋轢が解消されるのであれば、港湾戦争を仕掛けている州に対して補償を実施することも提案する。ただ、ばかげたような提案は止めるべきだ。というのも、輸入品への税制上の優遇措置は、法律に違反し、政治的にも逸脱した行為なのだから。これらの州が得た利益は、巡り巡って国家に大きな損害をもたらす。
決議案第72/2010号の起草者ロメロ・ジュカー上院議員は、政府のリーダー役を奪われて、この提案の防衛を新たなリーダーであるエドゥアルド・ブラガ上院議員(PMDB:ブラジル民主運動党‐アマゾナス州)に一任させた。ところがブラガ上院議員は、4%の共通税率の代わりに、「セグメント」ごとに税率を設定することを支持している。
したがって、国内工業と雇用を守るために極めて重要な法案の承認には、高いハードルが設置され始めた格好だ。港湾戦争は10州にまたがり展開されているため、その交渉は複雑を極めるだろう。政府内で新たなリーダーが台頭してきたことは、ある意味で最悪の兆候だ。決議の有効性を徹底的に矮小化するに足る、譲歩に向けた後退の幕開けだ。
政府は、それこそを懸念すべきだろう。財務大臣と連邦大統領は、世界中に資金をだぶつかせたために為替相場にねじれを生じさせ、結果的にブラジル工業に打撃を与えたと、先進各国の中央銀行を非難した。だが、より差し迫った脅威、かつ対応が比較的容易な脅威への対応に集中するほうが良いはずだ。(2012年3月15日付エスタード紙 コラム記事)